
国土交通省が発表している「平成27年度住宅経済関連データ」の中に、滅失された(壊された)住宅の建築後平均年数の比較が載っています。上に掲載したグラフの通り、イギリスは80.6年。アメリカは66.6年。これに対して日本の住宅は、たった32.1年にすぎません。平成20年度の『国土交通白書』にも、同じ比較が載っています。それと比べてみると、イギリスは77年の寿命だったのが10.6年延び、アメリカは同じように11.6年延びています。それに対して日本は、やはり延びているとはいえ、わずか2年あまりにすぎません。『国土交通白書』は、この比較データに的確な解説を付けています。【高い費用をかけて取得した住宅が利用される期間が短いということは、住む人にとって1年あたりの建築費相当の負担が大きくなり、かつ解体のコストも余計にかかることになり、それだけ住居費の負担が重くなることを意味している。このような負担を軽くするためにも、住宅を長寿命化し、長期にわたって使えるストック型社会へ転換することが求められる。】
住宅ローンの支払いに追われ続ける日本人
まさしくその通りです。家の寿命が32年というなら、一世代しか保たないばかりか、住宅ローンの標準的な返済期間である35年にも届かない短さです。つまり、支払いが終わらないうちに建て替えのタイミングがやってくる。そして子どもの世代が家を建て直し、新しい家のローンを一から払い始める。こんなおかしな話があるでしょうか。これでは、多くの日本人が住宅ローンに追われて一生を終えることになるのも、当たり前の話です。ところが、【住宅の長寿命化」を主張する国が自ら、住宅の法定耐用年数について、鉄筋は34年、木造は22年と設定しています。この年数に達した建物の価値はゼロだという意味です。
国の政策が住宅の寿命を短くした
日本の住宅には、なぜ30年の寿命しかないのでしょうか。材料が木だからといわれ、それは違います。奈良や京都に残る築千年を越える木造建築には、何世代にもわたる使用に耐えてきたものもあります。もちろん、建築技術のせいでもありません。ビルや高層マンションの建設で、世界トップクラスの技術を誇る日本です。住宅の建設技術だけがアメリカやイギリスに劣るはずはありません。寿命が短い大きな理由は、高度経済成長との関係にあります。昭和40年代、都会に人が集まり、通勤圏が郊外へ拡大するのにともなって、たくさんの住宅が必要になりました。団地と呼ばれるベッドタウンが大都市近郊のあちこちに造成され、集合住宅や分譲住宅が整備されました。個々の家の質よりも、大量供給が優先されたのです。金融機関の住宅ローンが整備されたのも、この時期でした。都会に出てきた人たちの持ち家志向は、一気に高まりました。将来も上がり続けるであろう給料に期待し、ローンを組んで住宅購入に踏み切る人が続出したのです。新しい家が建てば、家電や家具も売れます。当然、住宅産業全体は潤いますし、住宅市場の動きが経済全体の指標になっていることで明らかなように、住宅需要の喚起はいっそうの経済拡大につながります。そのため家の寿命は短いほうが、当時の国の政策としても都合がよかったのです。
日本で中古物件を選ぶ人が少ない
日本の住宅の寿命が短いもう一つの理由は、中古物件の売買数が少ないことです。前述した『平成二十七年度住宅経済関連データ』は、年間の「新築住宅着工戸数」と「既存住宅取引戸数(つまり中古物件)」の国際比較も紹介しています。アメリカは、新築着工が100万3000戸に対して、中古物件の売買は494万戸で、全体の83%を占めています。イギリスはもっと顕著で、新築着工が12万7000戸に対して、中古は93万2000戸。実に88%が中古物件です。アメリカとイギリスでは圧倒的に中古物件の取引が多いのに比べ、日本では、新築着工が98万戸に対して、中古は16万9000戸。14・7%の割合でしかありません。つまり日本の住宅マーケットでは、常に新築物件が求められていることがわかります。アメリカには、中古物件の価格が下がり過ぎないように新築住宅の供給制限がある、という理由があります。それとともに日本では、特に戸建てについて、過去の図面もメンテナンスの履歴もないような、どんな人が建てて住んでいたかわからない家には住みたくないという気持ちが強いようです。建物自体も、長持ちするように建てられていません。住宅の寿命が30年と短い背景には、住む人が替わると、そのまま住める家でも壊して建て直すことを繰り返してきた事情もあるわけです。しかしもはや、高度経済成長期ではありません。これから家を建てるなら、限りある資金を有効に使うためにも、住み心地に優れ、健康的な暮らしができ、なるべく長持ちする家を建てたほうがいいことは明らかです。その上で、価値ある資産として持ち続けること、財産としていずれ我が子に譲り渡すこと、あるいは高値で売却すること、なども念頭に置くべきでしょう。住み心地に優れ、長持ちする家の建て方については次回で詳しく解説します!